S系御曹司と政略結婚!?
腕を引っ張られて立ち上がらされると、そのままギュッと抱き締められた。
ヤツの突飛な行動についていけず、今度は私のほうが固まってしまう。
アルコールも回って熱い身体は、ドクドクと鼓動までけたたましい動きに変わっている。
「……やっぱり馬鹿だ」
こんな時まで馬鹿呼ばわりとか本気でありえない……!
「く……っ、苦しい……!」
「ああ、苦しみを味わわせてんだよ」
ムカついてヤツの胸を押して離れようとしたら、余計に腕の力を強められて身じろぎも出来ず。
「何なのよ、もうっ!だから、嫌いなら嫌いって、ちゃんと言ってよっ。……ひどい、よ」
たとえ振られるとしても、はっきり言って貰ったほうが良い。
こんな風に抱き締められても、何の意味も持たないなんて惨いよ。
頬を伝う大粒の涙が彼のシャツにシミを造り出していく。
泣き上戸で悪態までつく酒乱まで露見させて、今日は色々と最悪だ……。
「だから馬鹿って言うんだよ」
呆れたような声が頭上から振ってきて、「は……?」と惚けてしまう。
「じゃあ聞くけど。俺の名前、知ってるか?」
「はぁ!?」
話があちらこちらに飛んで、全く以って会話になっていない私たち。
「知ってるか聞いてんだろ!で、どうなんだ?」
“S”神野がここに降臨する。神出鬼没なヤツには泣く私への温情はやはりないらしい。
「知ってるわよ。神野でしょ?」
私だって同じ苗字だし?3年も虐げられて一緒に居たから当然ですけど?と、鼻高々に答えてやった。
「アホ、それは名字だ!名前だって言ってんだろ!オマエ、正真正銘の馬鹿だ」
不機嫌なことが伝わってくる声音で、とっても不名誉な称号を貰ってしまった。
相変わらず、その馬鹿を抱き締める力は弱めようとしない。あんたこそ、どれだけ“S”なのよ!