S系御曹司と政略結婚!?
抱き締められている苦しさより、情けなさで押し潰されそうだ。
そんな私を嘲笑うように、ほくそ笑んでいるヤツがまた憎い。
「ま、認めざるを得ないよな。“馬鹿”で“鈍感”なことは」
馬鹿に鈍感までプラスですか。もうこれ以上は否定も肯定も出来ない。その悔しさから、涙が溢れて止まらない。
「うう、もうっ、離してよぉ……!さっきの告白っ、かっ、返して貰うからぁ……」
ついて出た反論さえお粗末なモノで、自分の幼稚さに呆れ返ってしまう。こんな自分、ほんとにうんざりだ。
すると、ヤツが頭上で小さく息を吐き出した。そんなに鬱陶しいなら離して欲しいのに……。
「やっと手に入れたものをみすみす手離すわけないだろ」
「……は、ど、う、いう」
「俺の名前、思い出した?」
真意を尋ねようとしたのに、話を引き戻されてしまう。
少し落ち着いたので考えを巡らせてみる。しかし、どれだけ思い出そうとしても分からない。
もしかしなくても私、この人の名前知らないかも……?
「わ、分かんない、です……」
恐る恐る答えると、これ見よがしに盛大な溜め息を吐かれて小さくなる私。
「やっぱりな。ま、馬鹿だから仕方ねえけど」
「えーえー、どーせ馬鹿な私ですし?あなたの高名な名前も知らないのも仕方ないですよねっ!」
ワインを飲んだせいで怒りの導火線も短くなり、支離滅裂なことを口走ってしまう。
そもそも入籍しながら相手の名前さえ知らないなんて。愚鈍な自分を地中に穴でも掘って埋めたい気分だ。