S系御曹司と政略結婚!?
それでも涙を拭って、なけなしの虚勢を張る。ここでヤツから視線を逸らせば負け、せめて強がりたくて前を見続けた。
いつもは暫く続く膠着状態も、今はあっさり終わってしまった。
「俺が好きなのは華澄、オマエだ。なんで分かんねえの?」
肩に置かれていた手が離れ、そっと頬に触れながら告げられた言葉に耳を疑った。
いま何を言われたのか分からないくらいに、その言葉が現実のものだと信じられずにいた。
ふらり、とよろけた刹那、咄嗟に力強い腕が伸びてきた。
その腕に掴まりながら椅子に座らせて貰う。すると、ヤツは目の前に屈み込んで様子を窺ってくる。
「あ、りがと。こ、腰抜けた、みたい……」
「ああ、大丈夫か?」
「う、ん、多分」
頷く私に安堵の表情を見せたヤツのスマホが着信を告げる。
こちらに断りを入れて電話に出ると、そのまま自室のほうに行ってしまった。
彼が私を好きになってくれたの?でも、本当に?たちの悪い嘘じゃないよね?都合のいい夢でもないよね?
リビングに取り残された私の頭の中では、さっきの言葉がリフレインし続けていた。