S系御曹司と政略結婚!?


この瞬間、完全に私は透明人間になる。このまま触れないで貰えますように、と。


「秘書たるもの当然のことですわ。それに社長は何かと、その、大変かと思いますが、ご体調はいかがですか?」

横目でチラリと透明人間を視界に入れた主。その歯切れの悪い言い方で攻撃するのは止めて頂きたい。


「山内さん、何かしら?」

さすがに失礼なので黙っていられず、平静を装いながら不愉快な態度について尋ねた。

「いえ?副社長こそどうかなされましたか?」

それでも敵はまったく怯まない。それどころか、真っ黒なお腹の中で笑っていそうだ。


“気遣い無しのダメ女”って、お化粧ばっちりなその顔に書いてあるのよ!

ああもう、腹が立つ……!ここで笑顔を維持する私もイイ性格をしているけどね。


「あ、やだ。社長お時間ですよ?」

主は攻防を離脱したというように、おもむろにヤツの腕を引っ張りだした。和也も「そうだな」と、さして気に留めていない。

なんなのこの人!こっちはヤツから、ほぼシカトされてるのに……。


秘書たるもの発言する前に、社内でミニスカートなんて穿くのは止めて欲しい。

秘書の服務規程は、華美過ぎず目立ち過ぎず。これはアウトでしょう……!

それともうひとつ!これでも一応妻な私の前でよく既婚者のヤツに色目を使えたものね。

山内実加(ヤマウチミカ)25歳。これから主(あるじ)って陰で呼ぶから……!

あれこれ考えていたら、私ひとりこの場に置き去りにされていた。


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