S系御曹司と政略結婚!?
小さく溜め息をついていると、その間に井川さんはキリっと秘書の顔つきに戻っていた。
このギャップも彼女の武器だと思う。どうやら本人が気づいていないけどね……。
「副社長、本日の昼食はかわむら屋にご予約してございます」
大好きな京料理のお店だと知らされ、つい頬も緩んでしまう。あの生湯葉、早く食べたい……!
「ありがとう!キリも良いのでもう出掛けましょうか?」
「そうですね!」
彼女もまたニッコリと微笑んでくれるので、ふたりで笑い合う。
井川さんがここに配属されてから、私には毎日の楽しみが出来た。それがランチタイムだ。
ひとりで社食へ向かうことはなくなり、昼食が今まで異常に美味しく感じるようになった。
憧れてきたものとは少し形が違うけど、ひとりじゃないことがただ嬉しい。
準備を終えた私たちは副社長室からロビーに下り、玄関前に横付けされた車に乗り込んだ。
後部座席のドアを閉めた西川さんの運転で、予約したお店を目指して出発した。