S系御曹司と政略結婚!?
“K”の心
社長と苦手な同僚の山内さん、ふたりのキス現場を社長室のあるフロアで目撃してしまった。
よりにもよって、社長の奥様である華澄ちゃんと一緒に。
あまりに衝撃的なその光景を前に、私の頭の中からは血の気が引いていくのが分かった。
横目で隣で呆然とする華澄ちゃんに眼差しを向けると、まるで紙のように真っ白な顔色をしていて。
ここに来る前にちゃんと私が連絡を入れなかったからだ、と激しい後悔に駆られた。
お嬢様なのに分け隔てなく接する優しさと気高さで人目を引く美しさは、まさに高嶺の花そのもの。
直前まであんなに幸せそうな笑顔を浮かべていた彼女の表情は削ぎ落とされていた。
暫くして来た道を戻り始めた華澄ちゃんの後ろを無言でついていく。
あんなに苦しそうな表情を見てしまったら、かける言葉は何も見つからない。
その刹那、華澄ちゃんが不意に立ち止まって俯き始めた。
気になって駆け寄ろうとする。なのに、ここでも私は間に合わなかったのだ。
「……華澄ちゃん!」
涙に濡れた真っ青な顔色をした彼女はその場で意識を失ってしまった。
華奢な身体を揺らそうとしたけど、それは駄目だと押し止めて。半泣きになりながら、すぐ先にある社長室が思い浮かぶ。
それはつまり、社長に助けを呼ぶということ。ただ、あの光景に阻まれてその気になれない。
華澄ちゃんを裏切るような人たちに助けを求めたくなかった。
もし華澄ちゃんが目覚めてすぐにふたりを見たら、彼女の心は壊れてしまう気がする。
どうして?なんで華澄ちゃんばかりが傷つかなきゃいけないの?
勝手って思われても、あとでたくさん怒鳴られてもいい。——人としても大好きな華澄ちゃんのためなら。
「もしもし!?今すぐ社長室フロアに来てっ!」
私なりの最善策で華澄ちゃんを守るからと誓って。スマホである人を呼び出した。