S系御曹司と政略結婚!?
“S”の想定外
今日は華澄をどう虐めようか?
ひとりきりの社長室でアイツが来るのを楽しみに、明日の役員会の資料に目を通す。
しかし、約束の15時を大幅に過ぎても華澄は一向に現れない。それどころか連絡もない。
何やってんだと苛つき始めた俺のところに非情に鬱陶しい女がやって来た。
寒気を感じるほど胡散臭い笑顔を浮かべ、艶を誇るその唇でこう言ったのだ。
「恐れ入ります、副社長との打合わせですが急遽キャンセルだそうです」と。
キャンセル?華澄が?初めての言葉に眉根を寄せながら追求する。
「どういうことだ?」
そのひと言に微かに口角を上げた直後に、悲しげな表情に切り替えた。この偽善ぶりに反吐が出る。
焦らすその態度も苛立ちを余計に誘い、対峙する女に視線も刺々しくなってしまう。
「副社長が職場で倒れられたため病院に向かったそうです」
「なんだと!病院はどこだ!?」
華澄が倒れたと聞き、反射的に立ち上がった俺は焦りながら問い詰める。
「病院は有川総合ですよ」
こちらの剣幕に怯むどころか、どうでも良さそうなのがその声に表れていた。
ジャケットを掴んだ俺は「今日の予定は全部キャンセルしろ!」と言い残し、部屋を飛び出した。
何の情報もない状況で華澄は大丈夫なのか、それだけが心配だった。
エレベーターを降りてロビーを走っていると、受付嬢がいつもの笑顔で迎えてくれる。
だが、今は構わず素通り。猫かぶりなんてする余裕は微塵もなかった。
「早く、出してくれ!」
車のドアを開けて乗り込むと、俺の専属運転手の梶(カジ)に指示を出す。俺を乗せた車はすぐに発車した。