S系御曹司と政略結婚!?
それまで信頼していた人からの惨い仕打ちに、反論どころか涙も出てこない。
ずっと一緒だって、離さないって言ってくれたのも嘘。……今までの時間はなんだったの?
表情を失った私を置き去りに、彼は肩越しに亜衣ちゃんを見て話し掛けていた。
「な?言ってた通りだろ?完璧なお人形さんだからマジつまんねぇの。
こっちも演技するの疲れるし、息もめっちゃ詰まるし。却って良かったわ。——大学卒業と同時に、華澄からも卒業ってことで」
彼の話し声が耳に入るごとに、私という人間のすべてを否定された気分だった。
「えー、辛辣ー。ほんと光希って最低だしぃ。でも、華澄ちゃんも鈍いよねぇ。私たち、ここで何回ヤッてると思うの?同じベッドで男を共有してたってことだよぉ?
騙されてた方にも非はあるよね?これであたしの大事な光希は返して貰うから〜」
シーツに包まっていた亜衣ちゃんにも笑われて。友だちとも終わってしまうことは明らかだった。
一緒に遊んでいても、彼女が光希と裏で関係を持っていたことなんて気づかなかった。
真っ白な頭で行き着いたのは、最初から自分の居場所はここにはない。たったそれだけのことで。
最後まで何も言えないまま、私はその場を立ち去ることしか出来なかった。
どうやって家に帰ったのか記憶にない。気がつけば自室のベッドで踞っていた。
彼氏と旅行中の親友に頼ることも、病弱の母に頼ることも出来ずに、ひとりで行き交う感情をやり過ごす。
これって、悪いのは光希たちだよね?それとも、騙されていたことに気づかなかった私が悪いの?
ずっとずっと一緒にいたかった。愛していた人はまがい物の愛情をくれていた。そこに幸せな未来を見ていた自分。
やっぱり、ふたりに捨てられたのも自業自得なんだね……。
最愛の彼氏と友達を一瞬で失ってからの私は、何にも価値を見出せなくなった。
踏み込むことを恐れ、すべてを諦めるようになった。
親友の朱里(アカリ)にしかこの事実を話せず、校内でふたりと顔を合わせないよう逃げ隠れして。
『どうして華澄が逃げんの!?』と言われても、防御策はそれだけだったの。