S系御曹司と政略結婚!?


光希と別れなければ、院生として勉強に耽るつもりだった。

だけど、思い出の詰まったキャンパスで踏ん張る気力も皆無。

入社するよう命じる父たちに反発していたことも無意味に感じ、もう流れに身を任せたのだ。

お父様とお祖父様の言いなりの、気概もない人生に逆戻り。これが私には合っているはず。

——自分の感情を消したほうがきっと上手くいく、と。


期待してもいつか裏切られてしまう。だから、二度と恋なんかしないと固く誓ったのに。

こうして苦しみから逃げ続けた私に、意地悪な神様は再び試練を与えたらしい。

二重人格のヤツと出会って、嫌いが好きに変わって。舞い上がっていたのは、また私だけ。

光希みたいに、陰で嘲笑うための演技だったの?……あれが嘘なんて、信じられないのに。


今までヤツなんて代名詞で呼んで、本当に知らなかったヤツの名前もそう。

名前で呼ぶきっかけを探っていたのに、いざとなるとそのチャンスがなくて。

——もう貴方の名前を声に出すことも叶わないのかな……。


私たちのような愛情の欠片も存在しない夫婦は、浮気や不倫を見過ごすべきかもしれない。

肌を重ねた夜を最後に、キスはおろか会話さえほぼゼロ。ただの同居人、これがしっくりくる状態だ。

お飾りの妻に勝ち目はない。といっても、静かに堪え忍ぶのは意に反する。

和也から好きな人がいると告げられるまで待つとか、絶対にいやなの。

顔を見るのも嫌だと思わせるくらいに、ヒドイ振り方をしてやるんだから……!

惨めでも構わないわ、捨てられる前に逃げてやる!ほら、逃げるが勝ちって言うでしょ?


——だからお願い、せめて私のほうから別れを切り出させて……?


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