秘密の花園×名なしの森

 どのくらいその状態が続いただろう。おずおずと、彼が口を開いた。

「あ、あの」
「うん?」
「これ……ありがとうございました」

 そう言って彼が差し出したのは、見覚えのあるトート。中身はたぶん昨日貸したTシャツだ。

「こちらこそ。わざわざありがとう」

 ちらりと中を覗くとそれは、新品みたいに綺麗に畳まれていた。あ、柔軟剤のにおい。

 湊くんは、昨日初めて逢ったときみたいにおどおどしている。あたしは彼から少し離れて、手すりに寄りかかった。

「ねぇ。つまんない昔話、聞いてくれる?」

 ライトアップされた東寺をぼんやり眺めながら、言った。彼はなにも言わなかった。

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