秘密の花園×名なしの森

 ふと、握られたままの手に視線を落とす。

 小さな手、ほっそりと長い指。関節の骨が浮き出ていて、白い肌に血管が青く透けている。手首なんて折れてしまいそうなくらいに細くて、痛々しい。よく手入れされたつやつやの爪が、痛々しさを増しているように感じた。

「でも男の人だったとは思わなかったなー」

 独り言のように発せられた言葉に、どきりとした。

「ЯeiaRってレディースのカタログだから、てっきり――……」

 からからと話す彼女。それに反して、僕の背中は湿り気を帯びていく。もうほとんど彼女の言葉は耳に入って来なかった。

 動悸のように速まる脈。さっきまで惹かれてやまなかったのに、一変して彼女を恐れている自分に気付く――もっとも、僕が恐れていたのは彼女ではなく、彼女に“秘密”を知られることだったのだけれど――。

「――――ねぇ、もしかして……」

 彼女の静かな声に、心臓が跳ねた。

< 28 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop