秘密の花園×名なしの森
閉店後の店は、とても静かだった。
まだ数えるくらいしか使われていないティーカップを、ひとつひとつ丁寧に洗う。食洗機で洗えば手間ではないだろうけれど、ちょっとしたこだわりというか、なんというか。自分の手で洗って磨いたカップで、僕の入れた紅茶を飲んで欲しいという思いからだ。
「湊ー、それ片付いたらお茶ちょーだい」
カウンターに肘を付きながら、雑誌を片手に姉さんが言った。自分の店なんだから少しは働けと言いたくなるが、口にはしない。バックドロップを食らいたくはないもの。
でも、姉さんはそれなりに“いい仕事”をしていると僕は思う。この店に並んでいる茶葉は、味も香りも、質がいいものばかり。すべて彼女が選んだものだ。
ぺら、と雑誌のページを捲る音がする。
僕は適当に相槌を打って、手元のカップの泡を水で流した。