秘密の花園×名なしの森
* * *
僕は彼女の手提げを片手に、店の前でただ立ち尽くしていた。
くゆりさんに教えてもらった彼女のバイト先。ネイルサロンだとは聞いていたけれど――。
『Serendipity(セレンディーピティ)』と書かれた看板は、地下街の眩しすぎる照明に照らされている。扉がない店の中から、ほんのり甘い香りがした。
(……どうしよう……)
掌の中の携帯電話の画面に目をやる。今日何回目かのこの動作。何回見ても、八時にはならない。
約束の時間より一時間も早く来てしまった。
加えて、目の前のネイルサロンだ。外から見てもわかる白と淡い桃色で統一された店内は、僕を躊躇させた。