秘密の花園×名なしの森

 カウンターの奥から女性の声がふたり分聞こえ、カツンと高い靴音が鳴る。

「ありがとうございました」
「おおきに。また寄らしてもらいますね」
「よろしくお願いします」

 OLらしい女性に、もうひとりの女性が頭を下げた。お客さんと従業員のようだ。従業員らしい彼女の、結わえられた長い髪が肩を滑って垂れた。

 お客さんが大分遠くなるまでその背中を見送っていた女性が、不意にこちらを向いた。

「あ」

 ……くゆりさん、だ。

 目が合った瞬間、彼女はふんわりとした笑みをくれた。

「こ、こんばんは」
「うん、こんばんは」
「あの、えっと……早く、着きすぎちゃいました」
「みたいだね」

 口元に手をやって、彼女はころころと笑った。

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