記憶は私に愛をくれない。
目が覚めた陸には、すべての記憶があった。
すべての記憶を取り戻した。
私の本名は 町田 美初で、
陸の本名は 遠山 陸であることも思い出した。
でも、久代家の人たちに記憶が戻ったことは言わなかったそうだ。
普通の家族のように過ごす久代家の人たちに最初は違和感を覚えたらしいけど、次第に陸を自分たちの家族だと思わせようとしてることを感じ取ったらしい。
なんてカンの優れたヤツなんだ。
そのすべてを話し終えた陸の表情は、なにか縛られているものから開放されたような、
そんな清々しい顔をしていた。
こんなにいい顔をしている陸をいつぶりに見ただろうか。
あるいは、こんな表情、初めて見たかもしれない。