記憶は私に愛をくれない。
ウーーーーーーウーーーーーー
カーーーーンカーーーーン……。
夜6時。街中に消防車のサイレンが鳴り響いた。
私は陸と水泳スクールの帰り道をふたりで歩いていた。
「なんかあの、大きなマンションで火事らしいよ。」
サイレン聞いて外に出てきたおばさん達がそんなことを話していた。
大きなマンション……。
私たちの棲む街で大きなマンションと言ったら『双葉タウンマンション』。
私たちが棲むところしかない。
それまで明日の学校の話や友達の話をしていた陸と私の間にひんやりと冷たい空気が流れた気がした。
背筋が凍るようだった。