記憶は私に愛をくれない。
「り………。」


「久代ーーーー。」


言葉を後ろから遮られ、


恥ずかしさのあまり下を向いた。


名前を呼ばれた彼はおぅ、と軽く返事をし、


私の後にいた名前を呼んだ男子の方へと気だるげに歩いていった。


途中ですれ違ったけど、私は下を向いたまま歩き出したから、


顔なんて見れなかった。



――久代――。


あたしが知ってる陸は久代じゃない。



遠山陸だ。


別人なんだ。きっと。



あーあ、せっかく陸に会えると思って期待したのに、やっぱりいないか。
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