あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
「えっと、歩いて行けますって」
そうおっしゃられても。
急な展開についていけない。
「10分も歩けば、うちに着く」
「はあ」
課長、私、歩いている時間を聞きたいんじゃないんですけど。
課長ったら、すでに歩き出してるし。
私は、早足に追いついて、彼の腕をぎゅっとつかんだ。
「ちょっと待ってください。えっと、いいのでしょうか?私なんかが……」
課長は、腕を引っ張られて、よろめいた。
なに言ってるんだって顔で、冷たく私を見る。
「ネットカフェに泊まるよりは、くつろげると思う」
肩を、ポンと叩かれてつかんだ腕は、上手に外されてしまった。
私が聞きたいのは、そういうことでもないのですが……
課長は、ひたすら駅と反対方向に歩いて行く。
歩いていたのに、急に立ち止まった。
課長の背中に少し触れた。
背中越しに、声が響く。
「多分、うちに食料はないから、買い出し行くか?」
「はい」
コンビニで卵とハムと付け合わせのサラダを買う。
泊めてもらうのだから、少しお礼がしたいと思った。
「コーヒーはあると思うから、買わなくていい」
「はい」
カゴから、コーヒーの袋を出した。
こんなに買い物が楽しいなんて思ったことなかった。