あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
さっとシャワーを浴びて、着ていたものを身に着け、恐る恐るバスルームの扉を開ける。

課長は、こっちに背中を向けて、資料を見ながら完全に集中していた。

どう見ても、さっきより話しにくい雰囲気。



部屋は、寝室だけみたいだ。そのかわりリビングが広めになっている。


「えっと、あの……」

蚊の鳴くような声。エアコンのファン音より小さい。

「あがったのか?」

「はい」

遠慮がちに髪を乾かしたから、まだ少し湿っている。


彼は、私を見ずに答える。
「君は、寝室のベッドでゆっくり寝なさい」


って、一人ですよね?寂しいな。


なんて思ってる自分が恥ずかしい。


「えっと…」
一人で、眠れないってことじゃないけど。

「シーツと枕は替えておいた。着るものは、俺のじゃ嫌だろう?」

「いえ、それでもいいですけど……」
着古しなら尚可です。
あなたの来ているものに包まれて眠りたいです。

「そう?なら、クローゼットの中から適当に出してきていいよ」

「はい」

「じゃあ、お休み。必要なら鍵をかけなさい」


「お休み???」ですか?


まさか、これっきりですか?そんな。

「たくさん働いて、疲れただろう。ゆっくり休みなさい」
気を使ってほしいのは、そっちじゃないんですけど。


お休みのキスっていう雰囲気でもなく、にこやかな課長の微笑みとともに、私の目の前でパタンと扉が閉じられた。

課長……

本当に寝る場所だけ提供するつもりだったんですか?

そんな……
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