あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
課長にしては、かなりゆっくりな足取りだったけれど、マンションについた。
私は、エントランスのところで立ち止まる。
そうして、彼が何か言ってくれるのを待った。
待つけど、彼は言い淀んで困った様子。
それでもじっと耐えていた。
何度か、彼が口にしようとした言葉を飲み込むのを見て、たまらず自分の方から言い出した。
「課長、私はここで」
部屋の中に入ることを見届けなくても、そのまま階段を上がっていけば、後は何も考えずに寝てくれれば自然と朝は来る。
軽くお辞儀をして、体の向きを変える。
「帰るのか?」
予想に反して、気の抜けた声が頭の上から聞こえて来た。
「はい」
言い淀んだのは、帰ってくれって意味かと。
「君は、その……本当に送って来ただけなのか?」
「もちろんです」
「ちょっと待て」
腕をつかまれた。
そうして、体の向きを変えられ、私は課長と向き合った。
「さっきより、顔色良くなりましたね」
ようやく顔の表情を見ることが出来た。
少し歩いたせいか、心配するほどではなさそうだ。
「ありがとう。心配してくれたんだね。取りあえず、中に入りなさい」