あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
「えっと。あの……」
今度は、私が戸惑う番だった。
部屋に入れてもらえるとは思わなかったから。
辛そうに歩いてるし、本当に具合が悪そうだったから、このまま部屋には上がらずにまっすぐ帰ろうと思い始めたところだった。
課長は先に中に入ると、部屋の明かりをつけた。
この間来た時と変わりない。何にもない部屋だ。
この間より、忙しい分、片づける暇がなかったのか、新聞やダイレクトメールがテーブルに置かれたままになっていた。
「適当に座って。何か飲む?」
課長は、ソファの方を見ながら言う。
「飲み物は、いいえ、大丈夫です」
課長は、二つのグラスに水を入れて持ってきた。
ソファに課長と並んで座った。
ソファと言っても、二人くらい余裕で座れる普通のソファだ。
なのに、肘が軽く触れあうくらい近くにに課長がいる。
「どこまで面倒見てくれるつもりだったの?」
そう言ってから、軽くお礼をしてから一口飲む。
「玄関までです」
「だったら引き留めちゃ悪かったのかな。でも、それは嘘だろう?」
「帰った方が良かったなら帰ろうと思ってました。つきっきりで看病するほど気分が悪くないと思ってましたから」
「そうか」
彼は、ぐたっと力を抜いたようにソファの背にもたれかかった。
「どうして、こんな時に優しく手を差し出そうとするの?俺、ダメだって言ったのに」
「課長?私は、その人に恋愛感情を持っていなくても、そばにいて欲しいって思うことあると思います」
「止めてくれ。そんなふうに言うのは。理性なんて吹っ飛んでしまう」