あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
「課長は、何でも考えすぎです。何も考えずに、辛い時は甘えてください」
彼は、私を見ずに言う。
「そうは行かない。俺じゃダメなんだ。君のそばにずっと居てやれるわけじゃない」
「ダメだって考えてるのは、そんなことだけですか?」
本当に、どうでもいいことのように思えたから笑ってみた。
「何でもない事みたいに言うな。先のことは約束できないんだ」
それが何を指すのか分からないけど、たいしたことないっていうことに決めていた。
「何でもないかどうかは、私が決めることです。ほら。勇気を出して、甘えてみてください」
私は、彼の目の前で両手を広げて見せる。
「なに言ってるんだ……甘えたからって、事態がよくなるわけじゃない」
課長は、そんな子供だましみたいなことは止めろって目で見る。
「大丈夫じゃない人ほど、そうやって人の世話になるまいとするのよ」
「いや。ダメだよ。遠慮する」
「もう、しょうがないな」
いらないって、拒絶されたら
余計なことをしましたって、その場からいなくなればいい。
こんなふうに、彼の入ってほしくないっていう領域まで踏み込むつもりはなかった。
眼鏡の奥から、彼の知的な目が不安そうに私を見つめている。
そこから見える本当の彼の姿からは、どうしても、一人になりたくないと切実な思いが感じられる。