あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
彼の横で、半分眠りかけていた。
彼は、私の意識を別の方に、そらすようなことばかりしていたから、彼の言葉の意味を確かめてはいない。
でも、言葉に一字一句は記憶に刻んでおいた。
彼が発するどんな言葉も、ため息でさえも今の私には大切だと思えるから。
『合併でだぶついた管理部門の人間を、半分にするって言われたんだ』
『あり得ないでしょう。半分もいなくなったら、事務処理が追い付かない』
それは、むちゃくちゃだと思う。
『業務の効率化を図る。ビッグデータを利用して、機械が判断する。経理の事務員、人事係の事務員は、すぐにってことじゃないけど、何年もかけて、徐々に管理部門から他の部署に異動させていくんだ。
そのための人選から研修まで、人材開発課に丸投げされることになった。今まで人事をしてきた総務は、これからのことは、一切関係ないって』
『丸投げどうして?』
『まずは、社長の決断だった。それから、総務課も、身内の人員整理を、自分たちでしたくないんだろう。外から来た俺なんかより、ずっと一緒に働いてきた上司に言われた方がいいと思うんだけど』
『そうかもしれないね』
『一度会って、それで話は終わりという訳にはいかないんだ。何度も意見を聞いて説得したり、なだめたり。他の部署でもうまくやっていけるように、自信をつけさせなきゃいけない』
『うん』
配置換えは本当に大変だ。
所属した時間が長ければ長いほど、別の場所に異動するのが難しくなる。
多くの抑圧していたものから、解放してあげる。
私が、この人にしてあげられるのは、欲望も、拒絶もみんな受け止めてあげること。
「いい加減に、目を覚ましたら」
「まだ。時間が許す限り、君の中にいたい」
もう何度目か分からなくなった、彼のキスを私は、また最初から受け止める。