あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ


月島さんと待ち合わせしたのは、会社から少し離れた店だった。

同じチームの人と鉢合わせしないように、気を遣うのは嫌だと思ったから。

彼は、三十代半ばのエネルギッシュなサラリーマン。
一目見て、人当たりの良さそうな雰囲気から、営業職だろうなって感じる。

短めにカットした黒い髪に、きびきびとした目の動き。
常に何かないかとアンテナを張ってる。

見た目、ちゃらんぽらんだけど、この人も恐ろしく嗅覚が発達していて、私は、彼から仕事の多くをこの人に教えてもらった。

「お待たせしました」
月島さんは、先に席について待っていてくれた。

「日替わりランチでいいか?」
せっかちな月島さんは、まだ私が席に着く前に言い出す。


「はい」
こういうところは、元部下として、すでにあきらめている。


「そういうと思って、もう頼んである」

ホント最悪だ。
だから、その容貌の割にはモテないんだって、教えてあげたい。


彼は、私の好むものも、好まないものも分かっている。
なにせ、新入社員だった頃からの付き合いだから。

「なんだ?別のものがよかったか?」

「いいえ。そうじゃないです」


ここは、近くのオフィスビルの最上階にあるレストランだ。

眺めがよくて、30階の窓からは、東京の街が一望できる。

今日は曇り空で、遠くまでは見渡せない。


私は、景色を見ながらここに居ない人のことを思って、ぼんやりしていた。
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