あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
「結局は、自分のキャリアが大切ってこと?」
もうどうでもよくなった。
「それは、前からそう言ってただろ?」
本当にそう聞こえてくるから不思議だ。
「あなたは、それ以外に大事な物ってないの?」
もう、こんなことで泣くまいと思う。
「ない。俺には、自分のキャリアしかない。他に、何が信頼できる?この俺に。すべてを捨てて、君を選べっていうのか?長年準備して積み上げてきたものを、捨てろっていうのか?」
「私はただ、足を引っ張るだけしか能がない女ってこと?」
「そんなことない」
「藤原さん」
と言いかけて止めた。
彼は、私の肩をそっと抱いて、そっとキスした。
私は、彼を拒絶した。
「そんなふうにされると余計に欲しくなる」
彼が、言ってるのは本当にその通りの事だろう。
彼の行く先には、私のような女はついていけない。
課長は、そう思ってる。
人は、好きだっていう気持ちが残っていれば、自然と気持ちの残った行動をとる。
彼は、私を乱暴に扱おうとしてるけど、キスは驚くほどやさしくて切実だ。
凄く傷つけようとしてるけど、本当はそうすることが私の為だと思ってるから、わざと酷いことを言うのかもしれない。
彼は、私の心がどこにあるのかキスで探そうとしてる。
ずっと見つめてる目は、気持ちが全くないわけじゃない。
そう伝えてるし、この人は、そんなに単純で割り切れる人じゃない。
でも、私の存在が邪魔だってことは、考えられる。
「希海……」
肌と肌が売れ合う度に、熱を帯びた視線で、私の反応を見逃すまいとしてる彼。
欲望だけの男って、こんな目をしないのに。
私を抱きたいのは、欲望だけだって言う。
それとも、私なんかの経験則が当てにならないのか。
もう、分からなくなってきた。
何かを始めるならまだいい。
せっかく始まったと思えた感情を、彼は、終わらせようとしてるのだ。
最初に来た時もそうやって、拒絶されたっけ。
その時は、まだやりようがあると思ったんだけど。
私には、どうしていいのか分からない。