あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
二時間後、私は、彼が所属する渋谷支店の前にあるコーヒーショップで、天野君が出てくるまで待っていた。

天野啓太、二年目の社員だ。
最初に書いた配属の希望先は、管理部門の経理課だった。

ただ、ここ数年、管理部門でも、経理は新人を入れていない。

だから、どんなに優秀でも経理部門に入れる見込みは薄い。

いろいろ資格を取りながらも、希望する職種に就くことが出来ないのもこういう特殊な時期だからかもしれない。

本当なら、個人的に会いに来るのを、課長に了解を取るべきだろう。

でも、こういう不安なら、課長のような人よりも自分の方が話を聞いてあげられる。

私は、そう思って待っていた。

「お待たせしてすみません。栗原さん。人事の方がわざわざ来てくれるなんて嬉しいです」
国崎君や課長は、配属後の社員の様子を見に行っていた。

だから、私が定時で抜けても、誰も何も言わなかった。

私が社員を面談して来たのは、ほとんどが女子社員で男性社員は珍しい。

ほとんどが、職場の仲間とコミュニュケーションが取れないといったタイプの、内気な子たちだった。


私は、拍子抜けした。
今まで会って来た社員とは感じが全然違う。

目の前にいる天野啓太は、私が今まで経験してきたコミュニュケーション下手で営業に向いてないというタイプではなかった。

それが証拠に、彼は私の顔をしっかり見つめて、握手するために手間で差し出している。

「こちらこそ、栗原です」
出された手に軽く触れる。

「思ったより、女性らしい手ですね。可愛い」
ニコッと笑う。

「ちょっと、何するの?」
手を握られて、口元に寄せられた。

「すごくきれいな手をしてますね。キスしたくなる」

いったい、どういうつもりなのよ。
どこが営業に向いてないよ。
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