あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ


週明けの月曜日、私は、定例会議が終わって課長が会議室から出てくるのを待っていた。

課長には、会議の前に、事前にお話がありますと告げていた。
課長の了解を取って、小会議室を予約していた。

会議が終わると、課長は、資料の入ったパソコンを抱えて会議室に入って来た。

だいたい、どんな話か察しているんだろうな。
いい意味で、予測を裏切ることが出来ればいいけど。


椅子に座る前、パソコンをセットしながら彼が言った。

「全部に目を通したのか?」

私の顔を見ずに言う。

まあ、無理だろうと思って質問してるのが、わかる。

当てにしてないって思ってるだろうな。

まあ、見ててよ。
メガネ課長。

「課長、一日じゃ無理です」


「そのペースなら一週間あっても無理じゃないのか?」
何も言えない。確かにその通りでございます。

でも、何もしてないわけじゃない。

「ご心配なく。おかげさまで、何となく方向性は見えてきましたから」

「ん?」課長が、ようやく顔を上げた。


「実は、いただいた資料を眺めてたんですけど、混沌としてどうしていいのか分からなくなって、総務の国崎君に相談したんです。
そうしたら、彼から資料の内容をかみ砕いてレクチャーしてもらうことになって、見事に視界がクリアになるように、すっきりしました」

「あの中身を全部、理解したのか?」
半信半疑。あるいは、嘘だろって顔してる。

やっぱり、このメガネ男、私が途中で投げ出すと踏んでいたな。

「少なくとも、課長の言いたいことは読み取れてたと思います。よかったですね。
こんなに近くにいい人材がいて。
彼は、労務管理ですから手の空いた時に手伝ってもらえませんか?」

課長は、黙って話を聞いていたけれど、途中から私の話のことは、どうでもよくなったみたいだった。
彼はもう、数歩も先のことを考えて頭が働いている様子だった。

「なるほど。それなら考えがある。人員補充のために、総務から適当に引っ張ってきていいって言われてる。
労務管理は人手が足りてるから、問題ないだろう。で?話は、それだけか?」

それだけで、説明に30分かかると思ったのですが。

「はい」5分で終わってしまったら、はいと言うしかない?


「じゃあ、そんだけ資料の理解が進んでるなら、セミナーの提案もすぐにできそうだな。過去の例も含めて案を出せ。2、3日中で。出来たらメールで送って」

「いやいや、あの、それって課長がすでに……」

「俺の案で行くとは言ってない。自力でできるなら、それに越したことはない。せっかくだから自分でも考えろ。以上だ」

バタン。

「いや、あの」
パソコン繋いで、立ち上がる前に、行ってしまった。

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