あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
「えっと……」

私は、料理と飲み物の注文を終え、店の中の観察をしようとしてたところだった。

ずっと店舗の運営に関わってきた身としては、こういう専門店がどんな接客をするのか、とても興味がある。

「栗原?」

「はい」

けれど、課長の話は、私の理解をはるかに超えていた。

そんなこと、軽く吹っ飛ぶくらい。


「今日、君を呼んだ理由なんだか想像つく?」
私は、キョトンとして課長の顔をみる。

「いいえ。全然」
課長が、普通の仕事以外の会話をしてるの初めて見た。

「そっか、そうだろうな。何も言ってなかったから。呼び出した理由は、君に謝らなきゃいけないと思ってるから」

訳がわからないです。
それに、謝るって言ってるくせに、笑ってるし。

「謝るって。どうして課長が、私に謝ったりするんですか?」

急に思ってもみなかったことを言われてあたふたした。

いいタイミングでビールが来た。


課長は、私に構わずビールジョッキを取った。
「君は、最初に受けた扱いに不満はなかったの?」

美味しそうだけど、今は、ビールを口に持っていくタイミングを失っている。

「最初のことですか?」

「最初だけじゃない。その後も、俺は、君には失礼なことを言った」

私は、課長に乾杯するように促され、ジョッキを手に取った。

「不満というか、国崎君にもアルバイトって言われましたから、そういう意味で、見られた方にも非があります。

そう思いましたから、次の日からちゃんと目立たないスーツにしましたし……」
喉が渇いて我慢できず、一口飲む。

なんで私、こんなとこで、言い訳してるんだろう。

「そうか」


「ですから、課長は何も気になさらなくて……ちょっと、何してるんです?」

私は、目の前の課長の様子に目が釘付けになる。


それでも、と課長は姿勢を正すと、
「申し訳ない」と深く頭を下げた。

座ったまま、テーブルに頭が付きそうなほど、頭を下げている。


どうしたんですか?
いったい何が起こったの?

いやいや……

「そんなことやめてください」
私は、慌てて課長に頭をあげて下さいという。


「人を見かけで判断するなと言っておいて、自分が守れてない。
こんな俺の下でも、一生懸命働いてくれてこちらの方こそ、礼を言わなければならない」


私は、どう受け止めていいのか分からず、彼の顔を見つめていた。


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