紫苑
そんなある日、僕は仕事の帰りに連れと呑みに行った
帰り、少し酔ったのか
見知らぬ商店街を一人で歩いていた
もう時間が遅いせいか、どの店も閉まっていて静だ
すると商店街の中に一つ明かりがついている小さな店があった
僕は看板を見てその場に固まった…
「紫苑」
まさかと思いながら
僕はその店に入った…
店の片隅に君がいた…
僕は君を見つめた
君は僕の視線に気付いたのか
僕を見た…
しかし君が僕を見る瞳は冷たく、微笑みかけてはくれない
人違い…?
いや、そんなはずはない
僕は一人、カウンターに座り呑む事にした…
いつの間にか、僕は寝てしまったのか
店には誰もいなくなっていた
僕の視線は君を探していた
君は一人、店の片付けをしていた
僕は君に話かけた
『紫苑?』
君は黙ったままで僕を見つめる
『僕を覚えてる?』
君は答えない
僕は立ち上がり君を抱き締めた…
君は僕から離れた
そして冷たい瞳で僕を見る
『ごめん…』
僕は店を出た…
後悔した、君に嫌われてしまった
僕はいつの間にか君に出逢った公園のベンチで寝ていた…
夜が明けた
僕はふらつく足取りで会社に向かった
仕事中、君の事が頭から離れない
君が僕を見る冷たい瞳
もう逢う事は出来ないのか
あの店に行く勇気がない…
けれど君に逢いたい
仕事が終わり、家に帰った
服を着替えようとした時、
上着のポケットに何かが入っている事に気付いた
僕は何かを取り出した
小さなオモチャの指輪
何処かで見た事があるような…
ふと、頭の中に君が浮かんだ
これは君のものなのか?
…と同時に昔の記憶が蘇ろうとする
思い出せない…
遠い昔の記憶−
僕と君…そしてこの指輪?
「紫苑」
僕は思い出せないまま眠りについた