紫苑
第三章 紫苑
君は誰…
……。
(此処は何処だ?)
何か懐かしい
僕の前に少女が立っていた
少女は僕に微笑みかける
…君みたいに
そして少女は僕に手招きをし、走って行く
僕は少女を追いかける
何処まで走ったのか
少女を見失ってしまった
呆然と立ちつくしていると、少し離れた所に人が倒れているのに気付いた
近いてみた
倒れていたのは君だった
僕は君に触れようとする
君は目を覚まし僕を見た
そして僕に何か伝えようとした……
(夢…?)
君は何を言おうとしたのか
あの少女は…
僕は指輪を握りしめていた
まだ夜明け前
僕は、あの公園に向かった
何故かそこに君がいる気がした
夜の公園は静かで誰もいない
僕は君を待った
だんだん眠くなってきたのか
意識が遠くなっていく…
ふと、顔を上げると目の前に君がいた
僕は君に手を差し延べ君の手を握った
君は横に首を振る
そしてもう一つの僕の手を指さした
僕の手には指輪が握られたままだった
僕は君の指にオモチャの指輪をはめた…
ふと、僕の忘れたいた記憶が蘇ってきた
君は昔、近所に住んでた女の子だった
僕と君は子供の頃、ずっと一緒にいた
そして、お互い愛し合ってた
僕たちはまだ幼かったが
『大人になったら結婚しよぉね』
と約束した
そぉこの指輪を誓いに
今と同じように
僕は君の指に指輪をはめた
どうして…
僕は君との記憶を失っていたのか
こんな大切な記憶
僕と君はどうして離れてしまったのか…
ふと、君を見ると
君は僕を見て微笑んだ
…僕は君の全てを思いだした
『そっか…』
君はもう、この世にはいないんだ
そのあまりにも辛い出来事を僕は心の中に閉じ込めてしまっていたんだ
君は僕に忘れないでほしかったのか…
僕は君を強く抱きしめた
君は僕にキスをして消えていった
僕の指にはただ小さなオモチャの指輪が握りしめられていた
僕は夜明け前の夜空を見上げた
そして君の名を呼んだ
『紫苑』