隣の貴方は吸血鬼
美波が出掛けた少しあと、アパートの前に停まったのは、引越しのトラック…ではなく、大きなワゴン車だった。
運転席から若い女性が、後部座席から、学生服を着た少年が降りてきた。
「狭っ…何?このボロアパート。あり得ないんだけど」
「うっせー。前の家出て行かなくちゃいけなくなったのは誰のせいだ?あぁ?」
ワゴン一杯に詰め込まれた荷物を下ろしながら女性が怒鳴る。綺麗な顔つきに反して、言葉遣いはなかなか乱暴だった。
「ま、良いけどさぁ…別に」
「分かってるだろうなぁ、恭平。今度という今度は克服してもらうからな!?」
「はぁ?何で…」
「お前はそんなにアタシを虐待鬼姉にしたいのかっ!!」
それ以上の文句は受け付けない、と少年の頭を直撃した彼女の拳はそう物語っていた。