陰にて光咲く



一週間前に面接を受けた自動車会社から内定をもらったのは、つい昨日のことだった。


働き口が何とか決まって、ほっと一安心ついていた。


『そーいや、アズマはまだ帰ってこないのか?』


久しぶりに人の口からアズマの名前を聞いた。


その名前を聞くと、一瞬心が切なくなる。


健太には見えていないのに、首を横に振りながら答えた。


『まだだと思うよ。つか、互いの連絡先知らないからこっちに帰ってくるかもわからない』



アズマとは逮捕された後、一度も会っていなかった。


アズマが今どこにいるかもわからない。


『そうか…でもお前、アズマが帰ってきたらシェアするつもりで今のマンションにいるんだろ?』


健太の問いを聞いて、俺は部屋を見回してみた。


前に住んでいたアパートの部屋より、広めの部屋を借りて今は住んでいる。


アズマが帰ってきたら、ここに迎え入れるつもりでいた。


再会を約束したわけじゃない。


もうこの街には帰ってこないかもしれない。


けれど、なぜかアズマとはあれっきりで終わる気がしないんだ。


生きている間にまた出会いそうな、そんな予感がしているのだ。


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