ロッカーに拾われた私
「じゃあここでね。」
病院を出た最初の十字路で愛理と別れる。
そのまましばらく真っ直ぐ歩くと大通りにでる…けど今日はとてもじゃないけどそのまま帰る気にならなくて愛理の後ろ姿が見えなくなるのを確認してから寮とは別方向に曲がった。


深夜の住宅街にぽつんとそのコンビニはあり、周りの暗さに反比例して看板が殊更明るく光を放っていた。いつもは夜勤前とかに使うけど、こんな時間になるとさすがに私の他に客はいない。まぁ当たり前か。
店内をぼんやり一回りするとアルコール類の陳列棚が目に入る。

…ちょっとベタだけどこういうのもありかも…

適当に数本取るとレジに向かう。
アルバイトとおぼしき若いお兄さんは訝しげに商品を袋に入れて手渡してくれた。
そりゃこんな時間に女一人でアルコールなんて、ね。

店を出るとさっきよりも空気が冷えたように感じた。

店の外に設置されたゴミ箱の隣を陣取り袋から一缶取り出すと冷えた酎ハイを一口、二口と口に含む。
う…失敗したかも…半端なく寒い、冷える!

冷えきった体を感じながら、ぼんやりと先輩ナースの顔を思い浮かべる。
いや!今一番思い出したくない、むしろ忘れたい(その為、のアルコールなのだ)顔をなぜ思い出すんだ…。忘れろ、忘れろ…


…違う…一番思い出したくないのは

「待ってるから」

そう悲しげに微笑んだあの人の顔…

……

!!
だから!

いつの間にか強く握っていた缶の中身を一気に飲み干した。でもただただ苦くてちっとも酔えそうにない。

何気にコンビニの店内に目をやるとアルバイトのお兄さんと目が合う。
完全に不振人物だな~。さて、どうしようか。

ふと、大通りに出る前の三叉路に小さな公園があるのを思い出す。住宅街が広がるこの町には貴重な遊び場とみえて、昼間には多くの子供で賑わっている。でもさすがにこの時間には誰もいないだろうし、深夜も街灯が灯っていたような…
あやふやな記憶をたどりながら来た道をとぼとぼと戻る。アルコールが入ったせいかさっきよりも体が重い…。そういえばバタバタで休憩も取れなかったことを今更ながら思した。
 




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