夜の甘やかな野望


      *


倫子が出て行って、宗忠は気が抜けたように椅子の背に身を預けた。


多くの人が、自分に対して幻想を抱いているらしいのを知っている。


付き合っていると、やがて勝手に“外見のイメージと違う”って、非難される。


そう言うならばと思って、さようならをすると、修羅場化する過去は何度かあった。


高校生ぐらいまで。


その都度、上の兄には“自重しろ”と冷たく言われ、下の兄からは“選べよ”と馬鹿にされた。


その通りに自重して、選んだから、修羅場はなくなった。


もっとも、数多くのお友だち達は、こんなチャラっとした感じの男のどこがいいんだか、と自虐的に思うけど。


まあ、両親の厳命もあったし。


ある女性の顔が思い浮かび、思わずため息をつく。


今夜、ミュージカル観劇の約束をしている。


憂鬱だ。


憂鬱でしかない。
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