夜の甘やかな野望


     *


たしかに、刺されてしまえって思ったけど。


本当に刺されるとは思わなかった。


当番日に出勤して来ないため、携帯に電話をしたが繋がらず、勤務病院に電話をして、宗忠が入院中であると知っ
た。


病院側は大学の派遣まで頭が回っていなかったらしく、至急に代わりの医者を手配してくれた。


その医者が話してくれたのではない。


事務室に外線がかかってきたのだ。


一瞬、会ったことのある兄だという。


倫子はすぐに思い出した。


痴情のもつれで刺されたとおかしそうに話して、病院と病室を教えてくれた。


いい声だった・・。


録音しておけばよかったと、しばし無念さに浸る。
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