夜の甘やかな野望


男はまっすぐにこちらに視線を向けると、表情も変えずに軽く手を上げた。


宗忠の方も同じように手を上げる。


それだけで彼は彼女の指に指を絡めると、強引な調子で手を引いて去って行った。


宗忠に会いたくなかったかのように。


引かれながら彼女は振り返り、申し訳なさそうに軽く頭を下げていた。


お知り合いですか?と聞いて、プライベートを詮索するのもはばかられて、なんとなく無言になる。


宗忠も何も言わず、青になった横断歩道を渡りだした。


「今日のランチはなんでしょうね~」


ちょっと空々しいかなと思いつつ、言いながらちらりと宗忠を見ると、何やら含み笑いをしていた。


倫子の視線に気づいて、口元を引き締めている。


「あれ、兄なんだけどね」

「え!お兄さん!」


驚いて大きな声で遮ってしまった。
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