夜の甘やかな野望
「男って小さい頃はみんなそうだよ。
倫子さん、兄弟は?」
「いません。
一人っ子なので」
「ああ、そっか。
小さい頃、一番上の兄はアリ。
さっきの兄はトカゲ。
僕はカブトムシとクワガタを飼っていた。
飼育ケースの中だと狭いから可哀そうで、部屋で放し飼いをしていたら、お手伝いさんがゴキブリと間違えて叩き殺しちゃったんだよね。
あれは悲しかった。
ヘラクレスだったのに」
眉が下がり、大きくため息をつく。
ヘラクレスが何かもわからず、コメントに困った倫子はあいまいに笑った。
面識があまり無いのに、ここまで語る男は危ない気がしたが、嘱託医だ。
今後の付き合いを考えて、倫子は会話を続けた。