夜の甘やかな野望
食欲も満たされ、バイオリン演奏も休憩に入ったタイミングで宗忠は立ち上がった。
「挨拶してこよう」
手を差し出され、何とはなしに取ると、そのまま引かれていく。
「さゆりちゃん、お久しぶり。
またバイオリンの腕を上げたね」
「お久しぶりです。
ありがとうございます」
彼女は慎み深く微笑を返した。
バイオリンが弾けることといい、この笑い方、しゃべり方、仕草。
自分とは育ちが全く違うことがよくわかる。
知り合いなのか。
彼の両親は、こういう女性と結婚してほしかったんだろうな、と倫子はその笑顔を見ながら思った。