夜の甘やかな野望
11.No other Love
*
ここに移って、ひと月が経った。
全く慣れない。
宗忠は家に帰りつくと、畳の上にひっくり返った。
こんなに周りは自然豊かで、昆虫密度が高いっていうのに、それを楽しむ余裕もない。
精神的余裕が。
飴色を通り越している天井板を見ながら、熱いお茶を飲みたいと思った。
東京にいる時は、紅茶だったりコーヒーだったりしたが、こういう状況だと、やっぱり緑茶だ。
渋いのがいい。
宗忠はそう思って目を閉じた。
村の人が畳の表替えをしてくれたので、イ草の匂いに包まれる。
振り子時計の音が響く。
壁にかけっぱなしになっていた、真鍮の振り子がついた時計は、試しに電池を変えてみたら動いた。
時間が狂うので、もはやオブジェだが。