夜の甘やかな野望



「あれは秋明菊」


宗忠は目を細めた。


夕日の最後の光が、白い花に橙色の筋をつけていた。


いつもの静かな夜が訪れようとしている。


儚く揺れる花の中からは、無骨に立ち上がるリンゴの老木が、黒い影となって際立っていた。


宗忠は唐突に思った。


エデンは本当にエデンだったのだろうか。


アダムとイブは知恵の実をかじり、それで目が開かれ、そして地上に追放された。


そこから生きるのは苦難な道だった。


でも、それは不幸なのだろうか?


何も知らず茫洋と生きていくよりも?


誰かに問いかけて、宗忠はくすりと笑った。
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