夜の甘やかな野望
どう考えたって、あの相手に恋に落ちるわけがない。
王子と侍女ですから。
ああいう、いかにもモテそうな男はタイプじゃないし。
それになんせ存在している次元が違いすぎる。
同じ生命体と考えてはいけない。
そうそう、これは芸能人に憧れているのと同じだ。
自分の中で納得ができると、やっと息を吐いた。
「なんか酔っぱらったみたいだから、風に当たってくる」
「やだ、しっかりしなさいよ」
母親が顔をしかめたのに、倫子は“ごめん”と口ごもって会場を後にした。
今朝から母親の機嫌は斜めなのだ。
倫子より年下の従妹が嫁にいったのだから、面白くないのかもしれない。
しかも相手は高学歴な公務員。
今日の帰り道、また結婚についてやいやい言われるのか。
気持ちがブルーになりながら、ホテルの廊下を歩く。