心音
それからというもの、私は決まった日にあの男性に遭遇していた。

私が図書館に行く金曜日。

もしかして、ストーカー…?

とか思ったりもした。

だけど、これだけ会ってるのに何もしてこないって事は違うのかなって。

少なくとも危害は加えてこないのかなって思ったから、その可能性は消えた。

あ、実は今日は金曜日で、彼と会うの、5回目です。

いつもと違って、顔を上げて歩く。

前方に見えるのは、綺麗な病院。

その前にある公園の、綺麗なベンチ。

そこに彼は座っていた。

「こんにちは」

軽く手を振りながら挨拶してくる。

「こんにちは」

私も挨拶を返す。

「隣どうぞ」

「ありがとうございます」

彼の隣に腰掛ける。

「…そういやさ、名前、教えて貰っても良いですか?」

結構今更ですね。

そう思ったけど、それは言わないでおこう。

「え、と…しゅうきことね、に秋が喜ぶに琴の音って書きます」

平日の昼間だからか、公園は幼稚園に通っているくらいの子供達とその親達で賑わっている。

だが、私達の間には沈黙が生まれた。

…気まずっ!

え、名前言ったのに無反応なの…?

「あ、あの…」

「…ッああ、ごめん!俺の名前はあきのしん。秋の野に心って書きます」

秋野さん。私の苗字が秋喜だから、妙に親近感が湧く。

「秋野さんって、何歳なんですか?」

「俺ですか?俺は23ですよ」

予想通り、年上だった。

だって、大人っぽいもんね。

「秋喜さんは?」

「私は20です」

「やっぱり大学生だったんですね」

やっぱりって何だ。やっぱりって。

「…秋野さんは、就職してるんですか?それとも、院生とかですか?」

「…どっちもしてませんよ」

「…え?」

どっちもしてない?

そんな馬鹿な。

ニートか?いや、これだけコミュニケーション能力が高いんだから、どこかの会社の営業には就けるだろう。

「あ、俺、ニートとかじゃないですよ?」

私が黙ってたからか、心を見透かされたように言われた。

「…じゃあ、どういう意味ですか?」

「…いつかは、教えてあげます。とりあえず、連絡先だけ交換しませんか?」

「ああ、はい」

連絡先を交換し終えてから、図書館への道を歩く。

考査期間は終わったはずなのに定期的に図書館に来ているのは、課題を終わらせるため。

だけど、ちっとも集中出来ない。

___いつかは、教えてあげます。

彼の言葉が気になって仕方が無い。

人に言いたくないような事だったのだろう。

だが、その時の彼の表情が、あまりにも切なくて、儚くて。

頭から離れない。
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