エースとprincess
私の手元にあるのは冷たいロイヤルミルクティー。まえに家に行ったときに私がふざけ半分で飲みたいと言った飲み物だった。
「やっぱり、帰ります」
突っ張っているのが馬鹿らしくなり、パソコンの電源を落として帰り支度を整えると、エレベーターのところで瑛主くんが追いついてきた。
これはもう、待っていてくれたということだよね?
「亀田さんからなにか、聞きました?」
「姫里のことは昔の商売敵だって」
一緒に帰るつもりなのだとしたら、せめて駅に着くまでにはこの話に決着をつけたい。黙っているの苦手なので言いますけど、と前置きをして私は一気に語った。
「商売敵なんていうと聞こえはいいけど、そんなんじゃないです。いつも全力投球の私に対して、亀田さんは余裕と自信に溢れる提案をしていて、比べるのもおかしいくらいで。私じゃあ勉強も経験も足りなくて、ちっとも相手になってなかった。挙式予定のかたのご両親が付き添われる打ち合わせのときは、たいていあちらに契約を取られていて、私のほうは若いカップルにわりとウケがよかったから、なんとなく棲みわけができていたけれど」
記憶がよみがえる。仕事を取れたことも逃したことも。自分の手腕がすべてじゃない。相性だってある。わかってる。でも悔しい。悔しかったんだ、あのころの私は。
「当時は私、そんなことちっとも思っていなくって。亀田さんの会社のほうが大手なのは仕方ないけど、じゃあそれはそれとして、どうにかして亀田さんとこの牙城を崩してやろうと——躍起になってた」
道端で真面目に語りすぎてしまった。
「まあ、そういう関係です」