エースとprincess
そのときだった。
「谷口様」
初々しさの残る女の子の声が響いたのは。
「こちらにフラワーガーデンKの谷口様はいらっしゃいますか」
はっとなって目を開けるのと、瑛主くんが周囲の空気を切るように顔を起こしたのとがほぼ同時だった。瑛主くんは明らかに苛立った表情だったものの、私と目が合うと思い直したようにそれを笑みに一変させた。
「今のは惜しかった」
至近距離でふっと笑顔を向けられたうえ、そんなことをささやかれてなんともない人なんているんだろうか。私は瑛主くんに完全にあてられていた。顔は火照るし鼓動は速いし、もうどうにもならない。
「は、はは」
「もうちょっとだったのにな」
私、笑ったつもりがちっとも笑えてない。
なのに瑛主くんは……なぜそんな余裕綽々で笑っていられる!? もてるの!? 慣れてるの!?
こっちはいっぱいいっぱいで、心拍の激しさが、振動が、笑い声にまで伝わるかと思って冷や冷やしてるのに、涼しい顔しちゃって……なにこの格差。禿げちゃえよバカ!!
傍らの瑛主くんは声の主に返事をすると、私の肩に一度触れてから荷物を取って離れていった。