エースとprincess
「俺が本気出すとこんなもんじゃないよ。多いときは週に二十人くらいに寄ってこられる」
しゃべっているそばで、あの、と声がかけられる。芸能人のかたですか? いえ、一般人です。すみません、テレビで観たことあるような気がしたものですから。そんなやりとりを隣で黙って聞いていた。
話しかけてくるのは女性ばかりかと思ったら、そうでもなかった。今きたのは麻のシャツを身につけた白髪混じりの男性だった。自分の席に戻り、同伴の女性に違ったよと伝えている。そのあとも未練がましくちらちらとこちらを見ている。
「そんなに似てるのかな」
私も彼らを真似てみた。これは使える。顔をじっと見るにはいい口実だ。
瑛主くんも負けてはいない。ふっと目を細めてからいつもの強い視線に戻る。
「好きなだけ見ていいよ」
むしろ見てくれとばかりに身体ごとこっちに捻ってきた。新幹線の座席だから距離もそれなりに近い。んー、なんて私は言いながら、自分の顔が赤らまないように堪えた。
「耳、赤いよ。どうしたの?」
「赤くないし」
耐えてどうにかなるものでもなかった。見合っているんだから立場は同じはずなのに、私だけが照れている。