エースとprincess
「疲れただろ。足とか平気?」
人だかりが捌けた隙をついて、瑛主くんがさりげなくこちらを振り返る。急な言葉掛けにびっくりしたし、妙に胸にせまるものがあった。なに、今の。きゅんというか、ぎゅんときた。
「ありがとう。だいじょうぶ、です」
周囲に目を配りつつ、不慣れな私のこともしっかり考えてくれているんだと思うと、ものすごいことを言われたわけでもないのに身に沁みた。
「自由解散になりそうだから、出口が混むまえに出よう」
二十時の閉会予定だった。帰りの新幹線の時間があるからだと思われた。私たちは明日の午前に花の展覧会に立ち寄ってから帰路に着くことになっているので、今夜は地下鉄を乗り継いだ場所にホテルを取ってあった。会社でいつも使っている施設らしかった。
宿泊先に向かう途中、懇親会の参加者数名に呼び止められた。会の後半のほうでおしゃべりをした人たちだった。話がおもしろかったから印象に残っている。
「泊まりですか? このあともう少し飲んでいきません?」
どうしようか、と瑛主くんと顔を見合わせる。宴会場での雰囲気を引きずっていて、誰とでも打ち解けたい気分ではあった。
「大勢入れる場所を押さえてあるので、ぜひ。カラオケルームなんですが、まだオープンしたばかりで綺麗ですよ。うちの会社でもたまに利用しているんです」
瑛主くんが参加するなら私も同席しないわけにはいかない。だって、カラオケだ。公衆の面前で歌うかもしれないんだ。一緒に歌ってあげて、歌の苦手な瑛主くんを遠回しに守らなくては!