エースとprincess
「これからいじろうとしてたの! これだから趣のない人は嫌だわー」

 からかってやろうとした矢先に先手を打たれ、私は憤慨した。瑛主くんは平然としている。赤面するような展開に持ち込みたかったのに。
 趣ねえ、と瑛主くん。私と並んで座った。つまり同じベッドの上。重みでベッドが揺れる。

「じゃ、やってみてよ」
「嫌です。もうしない」
「まあそう言わず」
「無理。できないってば」

 口では強いことを言うけれど、力ずくでなにかされることはなかった。
 顔の片側で、瑛主くんがこちらを観察している雰囲気を感じとってしまって、最初のひとくちふたくちは味なんかしなかった。無心にアイスを食べた。瑛主くんが一回口に入れたとか、気にしないようにした。女子同士で味見するときのノリと同じだと自分に言い聞かせた。

「男に食わせるのはさ、ファーストバイトまで取っておきなよ」

「そっちもね。食べさせてもらうのはそのときまで取っておくといいよ」

 話を合わせながら、ファーストバイトってなんだっけと一瞬考えた。人生発のアルバイト? なわけなかった。
 ファーストバイトといったら、披露宴で新郎新婦が互いにケーキを食べさせあうあれだ。これから食べることに困らせない、おいしい物を作って食べさせてあげる、というお約束の演出。
 ブライダルフェアのときといい、今のといい、私たちこんなことばっかりしていない?

「このまえは挙式の会場で愛を誓ったし」

「あ、それ今私も同じことを考えてた」
 
嬉しくなって言ったのに、瑛主くんは冷たく目を逸らした。

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