傷痕~想い出に変わるまで~
「なんだ、篠宮もか?目が赤いぞ。」

「ああ…うん、ちょっとね。いろいろ考えてたら寝付けなくて。」

三十路過ぎの女の寝不足顔をそんな近くでマジマジと見ないで欲しい。

肌のカサつきとか目の下のクマとか、普段は気にならない門倉の無駄に整った顔立ちとか…近くで見られるといろいろ気になるんだから。

「…元旦那のことか?」

「うん…ああそうだ。昨日、光と会った。」

門倉は煙でむせそうになりながら驚いた様子で私の方を見た。

「えっ…会ったのか…。」

昨日会う前に言っていなかったとは言え、光と会うことを勧めたのは門倉なんだし、そんなに驚かなくてもいいのに。

「会ったよ。残業終わってから食事に行った。」

門倉は眉間にシワを寄せてコーヒーを飲んだ。

私もコーヒーを飲もうと椅子の間の台の上に視線を移すと、置いたはずのカップはそこになかった。

おかしいな、確かにここに置いたはずなのに。

反対側の台の上にもない。

ん…あれ?

門倉はここに入ってきた時、コーヒーなんて持ってたっけ?

門倉が口を付けているカップの淵には、うっすらと私の口紅がついていた。

「門倉!それ私のコーヒーなんだけど!!」

「あ、すまん。ついうっかりして。金払うわ。」

「…いいよもう。せめて別のところから飲んで。」

私の言葉の意味がわかると、門倉はばつの悪そうな顔をしてカップから口を離した。

「……悪い。」

間接キスとか小学生じゃあるまいし今更気にするつもりはないけど、カップに付いた口紅の上に私の目の前で口を付けられるのはなんとなく生々しく感じてしまう。

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