傷痕~想い出に変わるまで~
「で、相手はなんて?」

「うん…それなんだけど…。」

門倉が短くなったタバコを灰皿に捨てて腕時計を見た。

「ああ…もう行かないとな。話は仕事の後でゆっくり聞くわ。コーヒーのお詫びに今日はおごってやる。」

「コーヒーくらい別にいいのに。」

「いいからおごられとけ。じゃあ後でな。」

立ち上がって私の頭をポンポンと軽く叩き、門倉は先に喫煙室を出て行った。

触られた感触がまだ残る頭を思わずさする。

小塚の店まで手を引いてくれた時も思ったけど…ホントにデカイ手だな。

よく考えたら小塚の店で話を聞いた後、公園で門倉に抱きしめられたんだ。

いや、その前も確か会社の中庭で……。

門倉がなぜそうするのかよくわからないけど…そんなに私は弱って見えたのかな。

ちょっと前まではむやみに触ったりしなかったのに、なんで最近になって急にそんなことをするようになったんだろう?

別にイヤなわけじゃないからいいんだけど。

…イヤじゃないから、少し複雑な気分だ。




「篠宮課長、書類の確認お願いします。」

「はい。」

金城くんの作ったオリオン社のイベントの書類に目を通した。

メイン会場の大花壇のイメージ図だ。

大花壇で花時計を作ることになっている。

「うん、よくまとまってる。わかりやすくていいんじゃない?ここに注釈入れとくともっといいよ。」

「あ…花時計の件ですね。わかりました。」

何を、と言わなくても気付いたのは大きな成長だ。


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