傷痕~想い出に変わるまで~
20代で結婚も離婚も経験して、仕事一筋で恋愛から遠ざかっているうちに30代になった。

若い頃は不器用なりに純粋に“好き”という気持ちだけで突っ走れたけれど、今は何もかもが違いすぎる。

あんな別れ方をしたのに、もう一度付き合ってくれと急に言われてもどうしていいのかわからない。

もしもう一度一緒にいることを選んだら、何もかも過ぎた日の想い出として受け止め、あの頃のように光を好きだと言えるかな。

その道を選ぶことを、門倉は賛成してくれるだろうか。

別に門倉の許可や賛同がいるわけじゃないけれど、私は自分自身のことなのに自分だけの判断で決断を下すことを不安に思っている。

また同じ失敗をくりかえして光を傷付けてしまうのではないかと思うと、正直怖い。

今の俺を見てと光は言ったけれど、変わったのは光だけじゃない。

私も変わったと思うし、光が好きなのは昔の私なんだと思う。

光が今の私を見てがっかりするとか、もしかしたら私が今の光を好きにはなれない可能性だってある。

それでもやっぱり“光とはもう付き合えない”と断れないのは、私の中にまだ光への気持ちが残っているからなのかも知れない。

見えるのは後ろばかりで先はまったく見えない。

私はまた次の一歩を踏み出すことを躊躇して、同じ場所で足踏みをしている。





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